文字画像処理技術による古典籍情報のさらなる有効化
2026.09.23
研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月
研究代表者
大町 真一郎
工学研究科 教授
共同研究者
佐倉 由泰
文学研究科 教授
研究キーワード
古典籍 ; くずし字
1. 研究概要
古典籍の画像データは、手書きの文字の情報であるため、これを活字に翻刻することは大変な労力がかかる。従来の方法で古典籍約30 万点に及ぶ膨大な画像データを検索可能なテキストデータに変換することは、時間と労力と財源を鑑みて、不可能と言わざるを得ない。本研究では、膨大な古典籍画像の高精度な検索技術を確立し、同時に人文学の研究方法を見直すことにより、人文学の新たな創造性を高めることを目的とする。
本研究課題の中で、古典籍の高精度な検索技術は本研究の成否を分ける重要な技術である。古典籍の多くは「くずし字」で書かれている。くずし字とは文字の点や線を省略・連結して書いたものであり、専門的な訓練なしに解読することは難しい。また、機械学習を用いた文字認識技術(OCR)の精度は向上しているものの、従来の技術は画像をテキストに変換するにとどまり、「なぜその文字をそう読めるのか」という根拠を示すことができなかった。そこで本研究では、画像とテキストを同時に理解できる最新のAI(マルチモーダル大規模言語モデル)に着目した。このAIをくずし字専用に追加学習させることで、認識精度の大幅な向上を目指す一方、判断根拠の解明を目指した。実験の結果、一文字の認識では高い正解率を達成し、縦書きの行全体の認識でも誤り率を大幅に削減できた。また、画像の縦横比を保ったまま処理できるモデル構造が、行単位の認識において特に重要であることも明らかになった。
また、同時に、人文学の創造性を高めるための試みとして、古典作品自体の特質、意義と、漢字、ひらがな、カタカナという表記の別を中心とした古典籍情報との間の相関についても調査と考察を行った。表記のあり方を大きく異にする多様な諸本を内包する軍記物語作品を主な対象として考究を進める中で、表記の相違が異本間の表現内容の特質の差異に決定的に関与する作品がある一方で、その関与が多分に限定的な作品があることが、新たに留意すべき重要な問題として浮かび上がった。
2. 研究成果の意義と今後の展望
マルチモーダル大規模言語モデルを用いてくずし字を認識することを可能にした本研究の成果は、古典籍の内容理解や現代語訳の自動生成につながる重要な一歩であると考えられる。
3. 結語
日本には約30万点に及ぶ古典籍の画像データが存在するが、その多くはくずし字で書かれており、テキスト化には膨大な時間・労力・費用がかかる。本研究では、画像とテキストを同時に理解できる最新AI(マルチモーダル大規模言語モデル)をくずし字専用に追加学習させることでくずし字の認識精度の向上を図った。実験では一文字認識で高い正解率を達成し、行全体の誤り率も大幅に改善した。本成果は古典籍の高精度な検索技術の確立と、人文学研究の新たな可能性につながるものである。