帰属感の向上による完璧主義の緩和の検討
2026.09.25
研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月
研究代表者
濱本 裕美
学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部・電気通信研究所 助教
共同研究者
宮津 恵里奈
医学系研究科 人間脳科学研究分野
研究キーワード
拒絶過敏性 ; 完璧主義 ; fMRI
1. 研究概要
完璧主義は、うつ病や社交不安、摂食障害など様々なメンタルヘルスの問題と関連することが知られている。その背景として、これまで他者からの拒絶を予期・知覚し、過剰に反応する傾向(拒絶過敏性)によって、人間関係において孤独感を抱えやすいことが示唆されてきた。そのため、完璧主義者の拒絶過敏性がどのような対人場面で生じるのかを明らかにすることは、関連するメンタルヘルスの問題を理解する上で重要であると思われる。
ある先行研究では、完璧主義者はミスに対して特徴的な反応を示すことから、拒絶過敏性は人前でミスをした際に生じると示唆されている。しかし一方で、ミスが伴わない段階でも他者の存在そのものに対して拒絶過敏性が生じる可能性も指摘されており、どちらの状況で生じるのかは明らかでない。そこで本研究では、脳科学的手法(fMRI)を用いてこの問いを検証した。
具体的には、先行研究で社会的拒絶との関連が報告されている複数の脳部位に着目し、他者が存在する状況および人前でミスをした状況においてそれらの脳活動が完璧主義得点と関連するかを検証した。解析の結果、どちらの状況においても社会的拒絶に関連する脳部位の一部で完璧主義得点との正の相関が示され、関与した領域は両状況で異なっていることが示された。これらの結果は、完璧主義傾向が強いほど、他者がいるだけの場面でも人前でミスをする場面でも、社会的拒絶に関連する神経反応が増大すること、すなわち完璧主義における拒絶過敏性が両場面において生じる可能性を示唆する。
本研究は、社会的文脈を考慮した完璧主義の神経基盤を初めて明らかにした研究の一つであり、完璧主義傾向の高い個人では実際に拒絶されていない状況においても社会的拒絶に関連する神経反応が増大する可能性が示された。さらに、「人の前でミスをする状況」と「他者がいる状況」を独立した条件として検討したことで、完璧主義における拒絶過敏性が単一のプロセスではなく、他者がいるだけで生じる拒絶への予期・懸念と、人前でのミスによって「相手が自分をどう見ているか」を推測しようとするプロセスという、少なくとも二つの認知プロセスから構成される可能性が示された。これらの知見は、完璧主義における拒絶過敏性の発生メカニズムを神経レベルで明らかにするものであり、完璧主義に関連するメンタルヘルス問題の理解にも貢献する。
2. 研究成果の意義と今後の展望
本研究の成果は、完璧主義とメンタルヘルス問題をつなぐ拒絶過敏性の発生メカニズムの解明に貢献するものである。近年、SNSやAIの普及により「完璧であること」が求められる場面が増えている現代において、完璧主義傾向を持つ人はますます増加している。それに伴い、完璧主義に関連するメンタルヘルス問題も増加することが懸念される中、本研究は、完璧主義傾向の高い人における対人場面での拒絶過敏性の神経基盤を明らかにすることで、関連するメンタルヘルス問題の理解と治療に寄与することが期待される。
また、本研究は、学術的および臨床的な意義を有している。学術研究の観点からは、これまで一括して論じられてきた完璧主義における拒絶過敏性について、どのような対人場面で、またどのような神経基盤によって生じるかを初めて区別して示した点に新規性がある。臨床的観点からは、完璧主義傾向の高い人では、実際に拒絶される前の段階においても、他者の評価への感受性や拒絶への予期に関わる神経活動が高まっている可能性が示唆された。この知見は、完璧主義に関連するメンタルヘルス問題への支援において、拒絶経験そのものだけでなく、その前段階にある認知的プロセスにも着目することの重要性を示唆する。
また、本研究は心理学的な質問紙調査と脳画像計測(fMRI)を組み合わせることで、「完璧主義」という心理特性を脳レベルで理解しようとする学際的な試みである。こうしたアプローチは、人間の心と脳を包括的に理解することを目指すSo-Go-Chiプロジェクトの理念とも合致する。今後は、本研究で示された拒絶の予期や他者評価への過敏さという認知プロセスが実際の介入標的として有効かどうかを検証し、完璧主義に関連するメンタルヘルス問題の予防や治療への応用が期待される。
3. 結語
本研究は、完璧主義傾向の高い個人がどのような対人場面で他者からの拒絶を過剰に感じるのかを、脳科学的手法(fMRI)を用いて検討した。その結果、他者がいるだけの場面でも、人前でミスをした場面でも、完璧主義傾向が強いほど社会的拒絶に関連する脳活動が増大することが示された。さらに、両場面でそれぞれ異なる脳領域が関与していたことは、この「拒絶への過敏さ」が単一の反応ではなく、拒絶を事前に予期するプロセスと、ミスをした際に相手の意図を読もうとするプロセスという少なくとも二つの認知プロセスから構成されることを示唆する。本知見は、完璧主義とメンタルヘルス問題をつなぐメカニズムの解明に寄与すると考えられる。