ASD者の間接的意図理解に及ぼす認知機能と感情機能の影響
2026.09.25
研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月
研究代表者
木山 幸子
文学研究科 准教授
共同研究者
小泉 政利
文学研究科 教授
研究キーワード
間接的意図理解 ; ASD ; 認知プローブ課題
1. 研究概要
人間が社会生活を送る上では他者との適切な意図の応酬が必須であり、大きな誤解が生じると社会生活が損なわれる。日本の人口の約3%とも報告される自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)は、神経発達症の1つであり社会的コミュニケーションの困難により特徴づけられるが、字義通りの言語理解に支障がなくとも、多くの場合、文脈や対人関係に即した意図認知に不全が生じる。本課題は、ASD者の間接発話の認知過程について、TD者と比べた相違点およびASD者内での個人差を解明することを目的とするものである。
本課題では、反応時間を通して要約記憶への依存度合いを検証する認知プローブ課題(Holtgraves, 2001)を日本語化し、①TD者の若年者と高齢者の比較を行った上で、②若年~中年のASDとTD者の比較を行った。①成人TD者の若年群(n = 34)と高年群(n = 34)の比較では、高年層は若年層より間接発話の意図を自動的に認知しやすく、高年層が適応的意義の高い要約表象を活発に利用していることを示唆した。また②成人ASD群(n = 29)とTD群(n = 26)の比較では、ASD群はTD群より間接発話自動認知が弱いことが示唆された。また、最終理解に至るまでの途中段階の理解にかける時間配分に差が見られ、理解方略の差が示唆されている。さらにASD者内では、彼らの間接発話自動認知は知能が高いほど抑制される一方、主観的内受容感覚が良いほど間接発話自動認知が生じやすいことが示された。ASD者における要約表象に基づく間接発話認知への内受容感覚の関与を示唆する。
2. 研究成果の意義と今後の展望
人間の感情の基盤である内受容感覚が言語理解にどう影響するかを明らかにする本研究は、「人間らしいAI」を追及するための基礎研究として重要である。AIが人間の感情に適切に反応できるかという問いは、これまでにすでに検証されているが、それらをさらに発展させ、人間の言語理解過程の多様性を知能と内受容感覚を中心として多方向からより綿密に検証することは、人文社会科学が総合知プロジェクトに貢献し得る知見となり得る。
3. 結語
自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)は対人コミュニケーションの困難で特徴づけられるが、字義通りの言語理解に支障がなくとも、文脈や対人関係に即した意図認知に不全が生じることが多い。本課題は、ASD者の間接発話の認知過程について、TD者と比較しながら解明することを目指す。反応時間を通して間接発話認知のしやすさを検証する認知プローブ課題を、①若年層と高齢層の成人TD者、②成人のASDとTD者を対象に実施した。その結果、①TDの高年層は若年層より間接発話の意図を自動認知しやすいことが示された。また、②TD群に比べASD群は間接発話自動認知が弱いこと、要約表象に基づく間接発話認知への内受容感覚の関与が示唆された。