水環境におけるマイクロプラスチック付着バイオフィルムの微生物群集構造と生態機能の解明

2026.09.25

研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月

研究代表者
Batdulam Battulga
変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC) 特任研究員

共同研究者
大林 武
情報科学研究科 教授
Minoru Ikeda
農学研究科

研究キーワード
マイクロプラスチック ; プラスチスフィア ; バイオフィルム群集 ; 環境動態解析

1. 研究概要

マイクロプラスチック(5 mm未満のプラスチック粒子)は、水圏生態系に長く残留し、生物多様性や生態系機能に影響を及ぼす可能性があることから、重要な環境問題となっている。水環境中のマイクロプラスチックの表面には微生物が速やかに定着し、「プラスチスフィア(Plastisphere)」と総称されるバイオフィルムを形成する。これらの微生物群集は、マイクロプラスチックの環境中での動態に影響を与えるとともに、栄養塩循環や微生物間相互作用などの生態系プロセスに関与する可能性がある。しかし、プラスチスフィア群集の組成、形成過程、生態機能については、いまだ十分に理解されていない。

本研究では、宮城県および青森県の水環境、ならびにモンゴル・トール川流域から採取した環境中のマイクロプラスチックに付着するバイオフィルムについて、その微生物群集構造と潜在的な生態機能を調査した。野外調査、分子微生物学的解析、バイオインフォマティクスを統合した学際的アプローチにより、異なる水環境間でプラスチスフィア群集を比較した。調査地から水、底質、環境中のマイクロプラスチック試料を採取し、マイクロプラスチック付着バイオフィルムから抽出したDNAを16S rRNAアンプリコンシーケンシングにより解析した。さらに、バイオインフォマティクス解析により群集組成、多様性、共起パターン、予測される生態機能を明らかにし、微生物群集と各地の環境条件との関係を比較解析によって検討した。

その結果、マイクロプラスチックに付着する微生物群集は、周囲の環境媒体(水および底質)の群集とは組成が異なることが明らかになった。さらなる解析から、これらの群集は採取地点ごとに異なる生態的特徴を示すことが示唆され、各地の環境条件がプラスチスフィアの形成と潜在的機能に影響を与えていることが示された。これらの知見は、多様な水環境におけるマイクロプラスチック付着バイオフィルムの微生物群集構造と潜在的な生態機能について新たな知見を提供するものである。本研究は、日本とモンゴルの淡水および沿岸環境におけるプラスチスフィア微生物群集の比較データセットを構築するとともに、分子微生物生態学とバイオインフォマティクスを統合してマイクロプラスチック付着微生物を研究するための枠組みを提示した。得られたデータセットと解析手法は、環境中のマイクロプラスチックへの微生物の定着の理解や、データ駆動型の水環境モニタリング手法の開発に向けた今後の研究の重要な基盤となる。

2. 研究成果の意義と今後の展望

本研究は、水環境中のマイクロプラスチック表面に生息する微生物群集の生態学的意義についての理解を深めるものである。環境モニタリング、分子微生物学的解析、バイオインフォマティクスを統合することで、マイクロプラスチックと微生物の相互作用を研究するための学際的な枠組みを確立した。

本研究の成果は、プラスチスフィアが地点固有の生態的特徴をもつ微生物群集を含むことを示しており、環境条件や生態系の健全性の指標としての可能性を示唆している。本研究で構築した解析手法は、今後の水圏微生物生態学や環境モニタリング研究にとって有用な枠組みとなる。

また、本研究では微生物群集データに加えて、さまざまな水環境におけるマイクロプラスチックの物理的特徴や分布に関する包括的な野外観測データも取得した。これらのデータは、次世代のモニタリング手法を開発するための重要な基盤となる。今後は、野外観測と人工知能(AI)による画像解析を統合し、マイクロプラスチックの検出と特性評価の高度化を目指す。こうしたアプローチにより、従来の野外調査にかかる時間、労力、コストを削減するとともに、AIを活用した予測モデルによって、より効率的で拡張性が高く継続的な環境モニタリングが可能になると期待される。

本研究の成果は、マイクロプラスチック汚染の生態学的影響に関する今後の研究を支えるとともに、水圏生態系の保全に向けた連携に貢献し、革新的なモニタリング戦略や環境管理政策を策定するための科学的基盤を提供するものである。

3. 結語

マイクロプラスチックは、微生物がプラスチスフィアと呼ばれるバイオフィルムを形成する足場となり、水環境の中に独自の微生物の生息場所を生み出している。本研究では、日本とモンゴルの水環境から採取したマイクロプラスチックに付着する微生物群集を、DNAシーケンシングとバイオインフォマティクス解析を用いて調査した。その結果、微生物群集の組成は採取地点によって異なり、各地の環境条件がプラスチスフィアの構造と潜在的な生態機能を形作っていることが示唆された。本研究は、環境観測とメタバーコーディング、バイオインフォマティクス解析を組み合わせることで、マイクロプラスチック付着微生物群集を特徴づけるための枠組みを確立し、今後の環境モニタリングのための科学的基盤を提供するものである。