教育における合成音声:生成AIによる音声合成講義が学生のエンゲージメントと理解に与える影響の探究
2026.09.25
研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月
研究代表者
林 雅子
高度教養教育・学生支援機構 言語・文化教育センター 准教授
共同研究者
Eder Marvin
情報科学研究科
研究キーワード
生成AI ; 合成音声 ; 多言語教育 ; 反転授業 ; XR・メタバース国際共修
1. 研究概要
本研究は、XR・メタバースを活用した国際協働学修において、多言語の反転授業教材をより効率的に作成するため、生成AIに基づく音声合成技術の教育利用可能性を検討したものである。
国際共修型の授業では、学生が授業前に講義動画を視聴し、授業中は協働作業、議論、発表に集中する反転授業形式が有効である。しかし、日本語・英語など複数言語で講義動画を作成することは、教員にとって大きな負担となる。また、一般的なTTS音声は効率的である一方、自然さや人間らしさの面で学習者にどのように受け入れられるかを検討する必要がある。
そこで本研究では、PowerPoint資料と講義スクリプトから、日本語・英語のナレーション付き講義動画を自動生成する動画作成パイプラインを構築した。さらに、教員本人の音声をもとに学習した合成音声を作成し、自然音声、学習済み合成音声、一般的なTTS音声を比較した。
学生32名を対象に、同一内容で音声のみが異なる講義動画を視聴してもらい、自然さ、人間らしさ、理解しやすさ、今後も聞きたいかという観点から評価を行った。その結果、一般的なTTS音声は相対的に低い評価となった一方、学習済み合成音声は自然音声に近い評価を示した。これにより、合成音声は自然音声の単純な代替ではなく、多言語教材作成を支援する補助的技術として有望であることが示唆された。
本研究は、生成AI、音声情報処理、多言語教育、XR・メタバース国際共修を接続し、国際教育における教材作成の効率化とアクセシビリティ向上に貢献する基礎的研究である。
2. 研究成果の意義と今後の展望
本研究の意義は、教員が複数言語で反転授業動画を作成する際の負担を軽減し、国際共修に参加する多様な学生に対して、よりアクセスしやすい教材を提供できる可能性を示した点にある。
XR・メタバースを活用した国際協働学修では、授業中の時間を一方向的な説明ではなく、学生同士の対話、協働制作、発表、振り返りに充てることが重要である。そのためには、事前学習用の講義動画を効率的に準備する仕組みが不可欠である。本研究で構築した動画生成パイプラインは、PowerPoint資料と講義スクリプトをもとに、日本語・英語の講義動画を自動的に作成できる点で、今後の多言語教育支援に応用可能である。
一方で、教員本人の声を学習した合成音声には、本人同意、利用範囲、保存管理、第三者利用の制限、AI生成音声であることの明示など、慎重な倫理的配慮が必要である。今後は、合成音声そのものを単独の研究対象として拡張するだけでなく、AIファシリテーターやAI orchestrator など、国際協働学修を支援する広いAI教育基盤の一要素として、音声インターフェースのあり方を検討していく。
将来的には、生成AI、XR・メタバース、学習分析、多言語支援を統合し、国際共修における協働学修を支える安全で実用的な教育支援システムの開発へと発展させたい。
3. 結語
本研究では、XR・メタバースを活用した国際共修における多言語反転授業教材の作成支援を目的として、生成AIによる音声合成の教育利用を検討した。PowerPointと講義スクリプトから日英の講義動画を自動生成する仕組みを構築し、自然音声、学習済み合成音声、一般的TTS音声を比較した。その結果、学習済み合成音声は自然音声に近い評価を示し、多言語教材作成支援の可能性が示された。