AI支援下における思考の変容と個人差のクラスタリング分析
2026.09.25
研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月
研究代表者
中島 平
教育学研究科 准教授
共同研究者
鳥毛 颯樹
医学系研究科 人間脳科学研究分野 博士課程2年
研究キーワード
AI支援意思決定 ; 道徳的意思決定 ; fMRI


1. 研究概要
生成AIは、文章作成や情報検索だけでなく、人間の判断や意思決定を支援する存在として急速に広がっている。一方で、AIの提案を受け取ることで、人は考える負担を減らせる可能性がある反面、自分で判断する感覚や責任感が弱まる可能性もある。特に、正解が一つに定まらない道徳的・社会的な意思決定において、AI支援が人間の思考過程にどのような影響を与えるのかは、十分に明らかになっていない。
本研究では、量刑判断を題材とした意思決定課題を用い、AIの提案がある条件と、AIの提案がない条件を比較した。参加者はfMRI装置内で課題を行い、AI支援がある場合とない場合で、脳活動がどのように変化するかを検討した。
まず自己報告指標では、AI支援がある条件では認知負荷および反応時間が低下した一方で、主観的な責任感も低下することが確認された。さらに媒介分析の結果、AI支援は認知負荷の低下を媒介として責任感の低下に影響していることが示された。
脳活動については、当初、AIが判断を支援することで、意思決定に伴う脳活動が低下する可能性も想定された。しかし、全脳解析では、AI条件における明確な不活性化は確認されなかった。むしろ、AIの提案がある条件では、縁上回(supramarginal gyrus: SMG)を中心に、広い範囲で脳活動の上昇が確認された。
この結果は、AI支援が人間の思考を単純に省略するものではない可能性を示している。AIの提案を受け取った人は、その内容をそのまま受け入れるのではなく、AIが示した判断を理解し、自分の判断と照らし合わせ、最終的な意思決定に取り込む処理を行っている可能性がある。つまり、AI支援は「考えなくてもよくなる」ものではなく、AIの提案を解釈し、自分の判断として統合する新たな認知過程を伴うと考えられる。
本研究は、生成AIを人間の判断を代替する技術としてではなく、人間の思考や意思決定のあり方を変化させる存在として理解するための基礎的知見を提供するものである。
2. 研究成果の意義と今後の展望
生成AIは、教育、医療、司法、行政、ビジネスなど、さまざまな場面で人間の判断を支援する技術として利用され始めている。AIの提案は、複雑な情報整理や判断の負担軽減に役立つ可能性がある一方で、人間が自分で考える過程や判断に対する責任感に影響することも懸念される。
本研究の成果は、AI支援が人間の脳活動を単純に低下させるのではなく、AIの提案を理解し、自分の判断と照合するための処理を生じさせる可能性を示した点に意義がある。これは、AIが人間の思考を単純に置き換えるのではなく、意思決定過程に新しい形で関わることを示唆している。
今後は、本研究の主目的であるクラスター解析を含め、AI支援に対する反応の個人差をさらに検討する。これにより、どのような人がAIを有効に活用できるのか、またどのような場合にAIへの過度な依存が生じやすいのかを明らかにし、人間が主体性を保ちながらAIを活用するための支援設計につなげていく。
3. 結語
本研究では、生成AIの提案が人間の意思決定中の脳活動に与える影響を、量刑判断課題とfMRIを用いて検討した。AI支援によって脳活動が思考・意思決定時に低下する可能性も考えられたが、全脳解析では明確な不活性化は確認されず、むしろSMGを中心とした広域な活動上昇が確認された。この活動は言語理解や社会的認知、他者視点の統合に関わる領域とも重なっており、AIの提案を単なる情報として受け取るのではなく、その妥当性や意味を評価する過程が関与している可能性が示唆された。この結果は、人間がAI提案をそのまま受け入れるのではなく、内容を吟味しながら理解し、自分の判断に統合している可能性を示している。