Consumer–citizen duality(消費者−市民の二重性)に基づく、持続可能な食料選択に向けた定量的ギャップの探索

2026.09.25

研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月

研究代表者
井元 智子
農学研究科 准教授

研究キーワード
環境配慮行動 ; 二重性 ; 消費者 ; 市民 ; 有機農産物

図1 消費者と市民の二重性

1. 研究概要

この研究の目的は、「環境を保全することには賛成するのに、自分はその行動を取らない?!-人が持つ「二重性」を定量的に解き明かす-」 ことである。近年、環境配慮型社会を構築していくことは人類の命題として認知されており、そのために様々な政策や対策が実施され、消費者の意識変容も求められている。しかしながら、様々な対策が実施されているにもかかわらず、消費者の意識変容や行動変容が順調に進んでいるとは言い難い。本研究では、ここに同一人物内で矛盾があると捉え、その存在と割合を示すことに挑む。この矛盾は、Consumer–citizen duality(消費者−市民の二重性)という新しい概念であり、Vanhonacker et al. (2007) によって提唱され、農作物を例とすると、市民としては環境配慮型農作物の栽培推進に賛成するが、消費者としては環境配慮型の農産物を購入しない行動を同一人物が選択する理由を説明するものである。概念としての研究は蓄積が進んでいるが、2つの立場における選好を比較した研究はHamilton et al. (2003) による農薬使用削減についての研究や、食事の安全性についての研究(Alphonce, Alfnes & Sharma, 2014)などが挙げられるのみである。同一人物が、立場によってどの程度異なる選好を表明するかは、今後より環境配慮型社会を推進するために必要不可欠なデータであり、政策としての推進(市民の立場)及びマーケットしての推進(消費者の立場)を両輪として力強く推し進める重要な研究である。

日本全国の18歳以上の男女に調査会社を通じて、2025 年12 月23 日から26 日の四日間で、オンラインによるアンケート調査を行なった。有効回答者は1584 名である。環境配慮型の政策に賛成するかを横軸に、消費者として環境配慮型の農産物を購入するか否かを縦軸とし、二重性の検証を行った(図1)。結果、グリーンコンシューマーとして知られている①(政策賛成、購入する)は19.6%、エコではないグループ③(政策反対、購入しない)は39.2%であった。これらの2つのグループは政策に対する行動と購入行動が合致しており、これまで広く知られてきたグループである。②および④は政策に対する行動と購入行動が矛盾する、「二重性」のあるグループである。②は、政策に賛成するが、自身は購入しないグループであり、31.7%の人々が該当した。また④は政策に反対するものの購入は行う人々であり、9.4%の人々が当てはまった。「二重性」のある人々は2種類あり、合計は41.1%と、大きな割合を占めていることを示すことに成功した。

2. 研究成果の意義と今後の展望

今回の成果は、なぜ環境配慮型社会の構築が進まないのか?について、二重性の概念を用いて、矛盾する人々の割合を明示したものである。4割を超える人々が二重性を持つことが判明したことで、これまでの環境配慮促進のための情報や対策を超える、二重性解消に向けた議論のスタート地点に立つことができる。今後の展望として、なぜ二重性を持つのか、その要因を解明することが期待されている。

3. 結語

環境保全には賛成していても、自分では環境配慮型の商品を購入しない人がいます。本研究では、このような「消費者−市民の二重性」に着目し、日本全国の1,584名を対象に、有機農産物に対する意識と購買行動を調査しました。その結果、政策には賛成する一方で購入しない人や、その逆の人を含め、約4割(41.1%)が二重性を示すことが明らかになりました。本研究は、環境配慮に対する意識と実際の購買行動とのギャップを定量的に明らかにしたものであり、政策と市場の両面から持続可能な食料システムの構築を進めるための新たな知見となることが期待されます。