VRとGISを活用した津波避難行動における認知プロセスに関する研究
2026.09.25
研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月
研究代表者
榊󠄀 浩平
応用認知神経科学センター 助教
共同研究者
塩﨑 大輔
星槎道都大学
橋本 雄一
北海道大学
三浦 直樹
東北工業大学
竹本 あゆみ
加齢医学研究所
白濱 幸弘
医学系研究科
杉浦 元亮
加齢医学研究所/災害科学国際研究所
研究キーワード
津波防災 ; VR ; fMRI ; GIS

1. 研究概要
日本では2011年3月11日に発生した東日本大震災以降,巨大地震やそれに伴う津波災害への危機意識が高まり,国から個人に至るまで多様な防災・減災対策が議論されてきた.現在でも南海トラフ巨大地震や日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震による大津波が懸念されており災害対策は急務となっている.この対策を考える上で,Wisner et al(2004)が論じたように,災害リスクをヴァルネラビリティ(社会的脆弱性)とハザード(自然の加害力)から考えることは重要である.
そこで本研究は,これら地理学と脳神経科学のアプローチを融合させ,現実世界の避難行動における意思決定を,脳神経活動と空間情報から明らかにすることを目的とする.さらに,結果として得られた知識を防災リテラシー教育に結び付けるための検討を行う.ただし,fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いる脳神経活動の観測は実験施設内でしか行えないため,現実世界に準ずるものとしてVR空間での避難を研究対象とする.
研究方法は以下の通りである.まず,塩﨑・橋本(2018)で構築したVR空間での疑似津波避難訓練システムを参考に,fMRIに対応した新たなシステムを構築する.次に,このシステムで被験者に疑似避難を行ってもらい,その際の脳神経活動データを収集する.なお,脳神経活動の測定実験に関しては,東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターMRI研究倫理委員会に研究計画書及び実験概要書を提出し,認可を得て実施された.
2. 研究成果の意義と今後の展望
本研究は,地理学的アプローチであるGISを用いた避難行動分析と,fMRIによる脳神経活動の解析を統合し,災害時の空間認識と意思決定のメカニズムを解明しようとする世界的にも先駆的な試みである.従来の地理学研究では,アンケートやヒアリングなどを通じて人々の環境イメージや空間行動を把握してきたが,本研究では,その背景にある脳神経活動を直接的に分析することで,空間条件,認知・感情反応,避難行動の関係をより客観的かつ包括的に捉えることが可能となる.
本研究の成果は,災害時に人が危険をどのように認識し,避難経路を選択するのかを科学的に説明する基盤となる.これにより,避難を妨げる空間的・認知的要因を明らかにし,道路構造やランドマーク,案内表示などを考慮した避難環境の整備に貢献できる.また,人間の認知特性や意思決定過程を踏まえたVR防災教育の開発にもつながり,実際の災害時における迅速かつ適切な避難行動を促進することが期待される.さらに,得られた知見を地域防災計画や減災政策へ還元することで,巨大災害に対する地域社会のレジリエンス向上に資するものである.
3. 結語
東日本大震災以降,巨大地震・津波への防災・減災対策が急務となった.そこで本研究は地理学と脳神経科学を融合し,VR空間での疑似津波避難時における意思決定を,fMRIによる脳神経活動と空間行動データから分析した.その結果,左上後頭回,左紡錘状回,右中心前回を中心とする広範な活動が確認された.また,左上後頭回と左紡錘状回の空間的局所偏相関は避難目標方向ではなく誤方向側で高く,避難失敗者が誤方向側の景観やランドマークに注意を向けていた可能性が示された.本研究は,VR・脳神経活動・空間情報を統合した新たな避難行動分析手法を提示し,認知特性を踏まえた防災リテラシー教育への応用可能性を示した.