表記の違いに基づく日英バイリンガルの単語認知メカニズム解明:fMRIによる Visual Word Form Area の分化検証

2026.09.25

研究期間・年度
2025年度
2025年4月 – 2026年3月

研究代表者
中山 真里子
国際文化研究科

共同研究者
内原 卓海
国際文化研究科
鄭 嫣婷
国際文化研究科 教授
小室 竜也
国際文化研究科
吉原 将大
国際文化研究科
真家 崚
国際文化研究科
Yongsong Huang
総合知インフォマティクス研究センター 助教

研究キーワード
Visual Word Form Area (VWFA) ; 日英バイリンガル ; 文字種 ; fMRI

研究結果:文字種選好サブエリアの活性と「単語らしさ」への感受性

1. 研究概要

脳研究において、人が文字を認識するための特別な脳領域が存在することがわかっている。この領域は、左紡錘状回に位置する Visual Word Form Area (VWFA) と呼ばれ、VWFAの脳神経群は文字状の刺激に特異的に反応する。最新のバイリンガル研究によると、フランス語と英語など、二言語の文字特性が類似するバイリンガルの場合、同じVWFA領域が活性化されるが、中国語と英語など、二言語の文字特性が大きく異なる言語を読み書きするバイリンガルの場合、VWFAの異なるサブエリアが活性化することが示された(Zhan et al., 2023)。この結果は、言語の文字特性が異なる場合、その言語に合わせた個別の文字処理システムが脳内に発達する可能性を示している。

本研究は、文字特性に合わせた個別の神経群がVWFA領域に発達するという可能性を、日本語と英語のバイリンガル(日英バイリンガル)を対象として、言語間比較と言語内比較により検証することを目的とする。①言語間比較では、日英バイリンガルが英語と日本語の単語を読むときに別の神経群が活性化されるかを検討し、中英バイリンガルを対象とした探索的研究(Zhan et al., 2023; N = 10)の結果の再現性を検証する。②言語内比較では、日本語を母語とする者がカタカナと漢字からなる単語を読むときに別の神経群が活性化されるかを検討する。文字特性に合わせて個別の神経群が発達するのであれば、カタカナと漢字の読みにおいても同様な結果が見られるはずである。

実験参加者は、TOEFL ITP 520以上を取得した日本語を母語とする成人41名である。課題にはObject Detection課題を用い、コンピューターモニター上に刺激が連続提示される中で、不定期に現れるターゲット(★や####マーク)を検知し、素早くかつ正確にボタンを押すことを求めた。まずローカライザー課題により、英語・漢字・カタカナの処理に関わるVWFAのサブエリアを個人ごとに特定し、本試行では、特定されたサブエリアが文字種に応じて特異的に反応するかを検証した。刺激は文字種ごとに、無意味な線の組み合わせから徐々に実在語に近づく段階性を設定した。

その結果、ローカライザー課題により、漢字、カタカナ、英語それぞれの語に強く反応する個人別のVWFA領域が特定された。一方、従来の被験者間分析では、文字種ごとの領域の位置が平均化されるため、文字種間の空間的差異が相殺されてしまうことも示された。ローカライザーで特定された文字種特化神経群は、本試行でも対応する文字種に最も高い全体的活性を示した。英語選好サブエリアおよび漢字選好サブエリアでは、刺激が実在語に近づくにつれて活性が増加する傾向がみられ、カタカナ選好サブエリアにも同様の傾向がみられた(ただし、英語・カタカナ選好領域は該当する参加者数が20名未満のため記述的に扱う)。また、文字種共通選好領域では、英語と漢字の刺激に関して、VWFAの前後軸に沿った「単語らしさ」への感受性の有意な勾配がみられた一方、カタカナ刺激では明確な前後勾配は認められなかった。

2. 研究成果の意義と今後の展望

本研究の結果は、文字特性が大きく異なる言語や文字種を読む際に、VWFA内で文字種に応じた個別の神経群が関与する可能性を、日英バイリンガルを対象として示すものである。言語間(英語と日本語)だけでなく同一言語内の文字種(漢字とカタカナ)にも着目した点、また個人ごとにサブエリアを特定することで、従来の被験者間分析では相殺されてしまう文字種間の空間的差異をとらえた点に特色がある。これらの知見は、読みの神経基盤と文字体系の関係の理解に寄与するものである。なお、英語・カタカナ選好領域については該当する参加者数が限られていたことから、今後さらなる検証が期待される。

3. 結語

本研究では、日英バイリンガル41名を対象にfMRI実験を行い、文字の認識に関わる左紡錘状回の Visual Word Form Area (VWFA) において、英語・漢字・カタカナという文字種ごとに異なる神経群が関与するかを検証した。個人ごとのローカライザー課題により、それぞれの文字種に強く反応するVWFAのサブエリアが特定され、これらのサブエリアは本試行でも対応する文字種に最も高い活性を示した。この結果は、文字特性に合わせた個別の文字処理システムが脳内に発達する可能性を支持するものである。